Claude Code や Codex を使い始めて、「複数のエージェントを同時に動かしたい」と思った瞬間、多くの人は同じ壁にぶつかります。Conductor、Superset、cmux。どれも並列エージェント実行環境を看板に掲げていて、スクリーンショットを見比べても違いがはっきりしません。
結論から言うと、この 3 つのツール選びは機能比較表では決着しません。本質的な違いは「あなたの作業スタイル」の側にあるからです。
この記事では、3 ツールの差を生んでいる 2 つの判断軸を取り出し、あなたのタイプに合った最初の 1 本が見つかるところまで案内します。機能一覧ではなく、導入後に効いてくる情報を中心に組み立てました。
3 つは何を解こうとしているのか
まず、この 3 ツールが共通で答えようとしている課題を押さえておきます。
Claude Code や Codex のようなエージェントを 1 つだけ動かしているうちは、ターミナルと VS Code で十分でした。ところが「リファクタ用のエージェント」「テスト修正用のエージェント」「ドキュメント更新用のエージェント」を同時に走らせたくなった瞬間、急に困り始めます。同じブランチで複数のエージェントが編集すれば衝突する。ターミナルを何枚も開けば、どこで何が動いているか見失う。
3 つのツールは、この「並列エージェント時代の司令塔」という同じ役割を引き受けています。ではどこで違うのか。違いは UI の形(GUI かターミナルか)と、Git との向き合い方の 2 つから生まれます。この 2 軸が、選び方の全てです。
判断軸 1:GUI 派か、CLI 派か
1 つ目の軸は「作業の主戦場がどこか」です。
Conductor と Superset は、どちらも macOS 向けのネイティブアプリとして提供されています。エージェントの状態、diff、PR、ブラウザプレビューなどを 1 つのウィンドウに並べて見られます。GUI の安心感を好む人、チームメンバーに画面共有したい人、ダッシュボード的な可視化が欲しい人に向いています。
一方、cmux はそもそもアプリではなくネイティブターミナルです。Ghostty という人気ターミナルの基盤を内部で使い、tmux のようにペインを分割して各エージェントを並べます。Electron 製ではないため動作が軽く、Ghostty で使っているテーマやフォント設定をそのまま流用できます。
この違いは好みの問題ではなく、日頃の作業場所の問題です。普段からターミナルの中で生活していて、キーボード 1 本で全てを制御したい人にとって、GUI アプリはむしろストレス源になります。逆に、GUI のボタンで 1 クリック操作に慣れている人が cmux に飛び込むと、ペイン切り替えのキーバインドから学び直すことになります。
あなたが普段 VS Code や Cursor をメインに使っているなら GUI 側(Conductor か Superset)、ターミナルと Neovim が主戦場なら cmux。この 1 問で候補が絞れます。
判断軸 2:worktree 隔離か、main 直接作業か
2 つ目の軸は、Git との距離感です。
Conductor は「新しい worktree を都度作って、そこでエージェントを走らせる」という設計です。エージェントごとに独立したディレクトリとブランチを持つため、衝突は起きません。ただし、既存のローカルチェックアウトを使わず新規にリポジトリをクローンし直す実装のため、worktree を増やすたびに依存関係のインストールや .env 系ファイルの再設定が必要になります。Hacker News のユーザーコメントでも、この re-clone 方式の手間は繰り返し指摘されています。
Superset は似たように worktree を自動管理しますが、既存のローカルリポジトリの上に worktree を生やす方式です。再クローンが不要で、node_modules や .env.development.local もそのまま活用されます。「main ブランチ上で直接作業する感覚に近い」と評されるのはこの部分です。さらに外部エディタ(VS Code、Cursor、JetBrains、Xcode)や内蔵ブラウザプレビューとの連携が厚いため、フロントエンドの動作確認をアプリ内で完結できます。
cmux は worktree のネイティブな自動管理を持ちません。ユーザー自身、あるいはエージェント自身が CLI 経由で worktree を切る方式です。その代わり、cmux new-split、cmux send、cmux read-screen といったコマンドでエージェント同士がタブやペインを生成できます。低レイヤーで自由度が高い反面、セットアップは自分で組み立てる必要があります。
つまり、Conductor は「とにかく隔離してくれ」派、Superset は「既存のリポジトリをそのまま使わせてくれ」派、cmux は「全部自分で組みたい」派です。

2 軸マップで、あなたの現在地を決める

ここまでが下地です。機能比較表ではなく、自分のスタイルを先に定義してから選びにいく。これがこの記事の核になります。
縦軸を「GUI⇔CLI」、横軸を「worktree 隔離⇔直接作業」として考えてみます。
- 左上(GUI × 隔離):Conductor のポジション
- 右上(GUI × 直接作業):Superset のポジション
- 右下(CLI × 直接作業寄り):cmux のポジション
- 左下(CLI × 隔離):該当プロダクトなし(cmux にスクリプトを足して自作する領域)
あなたはどこに立ちたいですか。その答えが出た時点で、候補は 1 つか 2 つに絞られています。残るのは、料金・ライセンス・評判といった「導入後に効く要因」の確認だけです。
Conductor:GUI で “Just Works” を狙う Mac アプリ
Conductor は Melty Labs(Y Combinator S24 採択)が開発している Mac アプリで、2025 年 7 月に公開されました。Linear、Vercel、Notion、Ramp、Spotify といった企業が公式に採用実績として挙げられています。
強みは、Claude Code と Codex に絞った作り込みです。API キーはユーザー持参(BYO)で本体は無料。ワークスペースを作るとエージェントを 1 つ起動でき、diff レビュー、PR 作成、AI レビュー、CI チェック確認までを GUI 上で一気に回せます。Hacker News では「Claude Code の素直な GUI 拡張」「1 つのことをきれいにやる」と好意的な声が並びます。
地雷は 2 つあります。1 つは前述の re-clone 方式。worktree を増やすたびに待たされるのは、試行回数を重ねる現場では効いてきます。もう 1 つは、初期バージョンで GitHub の権限要求が過剰だった問題で、フルアクセスを求める挙動にプライバシー懸念が上がりました(現在は細粒度権限や gh auth 連携が追加され改善されています)。
向いているのは、Mac をメインに使っていて、Claude Code か Codex が決め打ちで決まっていて、GUI の安心感を重視する人です。
Superset:中立なオーケストレーターという選択
Superset は 2025 年末に Hacker News に登場し、2026 年 3 月に Product Hunt で注目された比較的新しいツールです。GitHub リポジトリは 9,000 以上の star を集めています。
目を引くのは「エージェント中立」を貫いている点です。Claude Code、Codex、Gemini、Cursor Agent、OpenCode、Aider など、主要な CLI エージェントを横断的に呼び出せます。新しい CLI が出てきても、ラッパーに縛られず最新機能へすぐ追従できるのは現場感のある設計です。
料金は、個人の無料ティアに加えて Pro プランが $20/seat/月。ここは 3 ツールで唯一、本体側に明確な課金がある点です。代わりに内蔵ブラウザプレビュー、チャット、diff エディタ、MCP サーバー連携、GitHub や Linear との統合といった「チームで使うときに欲しい機能」が揃います。
ユーザー評では「AI を使ったコーディングに対する認識が変わった」という声がある一方、「10 並列のエージェントを本当に人間がレビューしきれるのか」という冷静な疑問も出ています。これは Superset 固有の問題ではなく、並列エージェント時代全体の課題を先取りした声として読めます。
向いているのは、複数の CLI エージェントを使い分けたい人、既存のローカルリポジトリの上でそのまま作業したい人、チームでの共通ツール化を視野に入れている人です。
cmux:ターミナル主権派の新星
cmux は Manaflow(Y Combinator 採択)が開発するオープンソースのネイティブターミナルです。GPL-3.0 ライセンスで、2026 年 4 月時点で GitHub star 数は 14,900 を超え、バージョンは v0.63.2 まで進んでいます。2 週間で star が 9,500 増えたという報告もあり、この 3 つの中では一番勢いがあります。
Ghostty の設定(テーマ、フォント)をそのまま継承し、縦タブとペイン分割で複数エージェントを並べられます。青いリング表示で「入力待ちになったエージェント」を通知し、サイドバーで git ブランチ、PR、ポート番号、通知を一覧できます。cmux notify という CLI は Claude Code の hooks に連結でき、エージェントが終了した瞬間に macOS の通知を受け取れます。
さらに踏み込んだ機能として、内蔵のスクリプタブル・ブラウザとソケット API があります。エージェントが DOM の accessibility tree をスナップショットしてクリックやフォーム入力を自動実行したり、別のエージェントを spawn したりできる。CLI で全てを制御したい人にとって、ここまで自由に触れるツールは他にほとんどありません。
Product Hunt では Brian Ellin 氏(Pilot 共同創業者)が「日々の相棒であり、複数ワークスペースの複数エージェント管理で最高のツール」と評し、「通知機能が予想外にワークフローを変えた」というユーザー声も続きます。Ghostty ユーザーや Electron 製アプリを避けたい層から支持が集まっているのが、このツールの現在地です。
懸念は 2 つ。1 つは macOS 専用で、モバイルやリモート環境では動きません。もう 1 つは GPL-3.0 ライセンス。Reddit では「MIT や Apache なら企業採用が広がるのに」という声があり、ライセンス審査のある組織では慎重な検討が必要です。
料金・ライセンス・OS、実務で効いてくる差
ここまでの話を、導入判断に直結する 3 つの実務的観点で整理します。
料金面。 3 つとも API キーは BYO 方式で、Claude や OpenAI の利用料は別途発生します。本体料金で差がつくのは Superset Pro のみ($20/seat/月)で、Conductor と cmux は本体無料です。個人で使う分にはどれを選んでも本体コストは横並びですが、チーム導入では Superset だけシート課金が効いてきます。
ライセンス面。 Conductor はクローズドソース、Superset はオープンソース、cmux は GPL-3.0 です。GPL は派生物にも同じライセンスを要求する伝染性があるため、自社プロダクトに組み込む可能性があるなら審査が必要です。一方、個人の開発環境として使う分には実用上の問題は起きません。OSS を前提にしたいなら Superset か cmux、ブランド付きの安心感を取るなら Conductor、という分け方になります。
OS 面。 残念ながら 3 つとも macOS 限定です。Conductor は Windows 版のウェイトリストを受け付けていますが、現時点で Linux 版を含めた公式サポートはどのツールにもありません。Windows や Linux をメインに使っている人は、この 3 ツールのどれかを選ぶこと自体が難しい状況で、代替として VS Code の Agent モードや Dev Container ベースの構成を検討することになります。
あなたのタイプ別、最初の 1 本

2 軸マップと実務要因を合わせて、タイプ別に最初の 1 本を示します。
- Claude Code か Codex を決め打ちで、Mac アプリの安心感が欲しい人 →Conductor。設定がほぼ不要で、GUI の中ですぐ並列作業を始められます。
- 複数のエージェント(Claude、Codex、Gemini)を気分で使い分けたい人 →Superset。ラッパー依存がなく、新しい CLI にもすぐ追従できます。
- 普段からターミナルで生活していて、カスタマイズと自動化で環境を育てたい人 →cmux。学習コストはあるものの、そこを越えた先でできることは他の 2 つの比ではありません。
- チームで統一ツールを入れて、フロント開発のプレビューまで一元化したい人 →Superset。ブラウザプレビューと外部エディタ連携がそのまま効きます。
- GPL-3.0 のライセンス審査が通らない組織の人 →Conductor か Superset。cmux は個人検証までに留めるのが無難です。
あなたが 5 つのどれに近いかを決めれば、その行のツールをまず 1 週間試す。これが失敗コストの一番小さい進め方です。
最初の 1 本を選んだあと
最後に、この選択は「暫定解」だという話をさせてください。
並列エージェントをどう使いこなすかは、2026 年現在まだベストプラクティスが固まっていません。3 ツールとも 1 年前には存在しなかったか、まったく別の形だったものです。半年後にはまた別のツールが勢いを持ち、3 つのうちのどれかは立ち位置を変えているかもしれません。
だからこそ、最初の 1 本で全てを決めようとしなくて大丈夫です。2 軸マップで自分の現在地を確認し、その時点で一番合っているものを 1 週間使う。違和感があれば次に移る。この循環そのものが、あなたの作業哲学を育てていきます。
Conductor から入って GUI の楽さを知り、Superset でエージェントの使い分けを覚え、cmux でターミナル自動化の深さに触れる。そんな階段を数ヶ月かけて登ってみると、自分が本当に何を作りたいのかが、ツール選びを通じて少しずつ見えてくるはずです。
参考情報
- Conductor 公式: https://www.conductor.build/
- Superset 公式: https://superset.sh/(Conductor との比較ページ: https://superset.sh/compare/superset-vs-conductor)
- cmux GitHub: https://github.com/manaflow-ai/cmux
- Conductor レビュー(The New Stack): https://thenewstack.io/a-hands-on-review-of-conductor-an-ai-parallel-runner-app/
- Show HN: Conductor: https://news.ycombinator.com/item?id=44594584
- Show HN: Superset: https://news.ycombinator.com/item?id=46368739
- cmux Product Hunt: https://www.producthunt.com/products/cmux