AIエージェントを動かしていると、請求額だけが膨らんで「どこで無駄が出ているのか」がわからない、という状況になりやすい。Wattageは、そのモヤモヤを実データから読み解くためのコマンドラインツールである。Claude Codeのセッションログや OpenTelemetry の GenAI トレースを読み込み、10 種類の検出器で無駄なトークン消費のパターンを洗い出し、それぞれ「いくら損しているか」をドル換算で示す。開発者は Muhammad Faizan Raza 氏(米国)、ライセンスは Apache 2.0 のオープンソース。APIキーも設定ファイルも不要で、完全にオフラインで動作する。
主な特徴
- トレースを読んでドル換算する: Claude Code / Claude Agent SDK のセッションログ(
.jsonl)や OpenTelemetry GenAI セマンティック規約のトレースを解析し、各 API 呼び出しに検証済みの価格データを当てて課金額を再構成する。OpenLLMetry(Traceloop)や OpenInference の属性名、JSON Lines 形式も自動判別して読み込める - 10 種類の無駄検出器:
prefix_churn(キャッシュせずに同じ前置きを再送している)、cache_gap(キャッシュしたのに後段で読み出せていない)、retry_storm(同じリクエストの連続再送)、tool_result_bloat(巨大なツール結果を次の呼び出しに再投入)、verbosity(必要以上に長い出力)、redundant_tool_calls(同一・類似のツール呼び出しの重複)、retrieval_thrash(新しい情報を得られない検索の反復)、model_mismatch(安いモデルで足りる仕事を高価なモデルが処理)、reasoning_overspend(単純な工程での推論トークンの使いすぎ)と、それぞれに具体的な修正案が付く - 非収束を捉えるコンバージェンスエンジン:
nonconvergence検出器は、エージェントのループが「進展しないまま往復している・振動している・停滞している」状態を検出する。ツール呼び出しの回数だけでは見えにくい、エージェント特有の無駄を拾えるのが他のコスト計測ツールとの違い - 効率スコアとバーンマップ: トークン効率を 0〜100 のスコアで算出し、
--htmlオプションで単体ファイルのインタラクティブな「バーンマップ」(どの工程が高くついたかを示すフレームグラフ)を出力できる。wattage badgeでバッジ用の SVG も生成できる - CI に組み込むコスト回帰ゲート: GitHub Actions が用意されており、ベースラインのファイルと比較して「スコアが 80 を下回った」「コストが 5% 以上増えた」といった条件でビルドを失敗させられる。PR には固定コメントで検出器ごとの差分が投稿され、SARIF・JUnit XML も出力できる
- 推測しない設計: 価格情報を持たないモデルが混ざっていた場合、勝手なレートを当てはめず終了コード 4 で明示的に失敗する。使用量が記録されていないトレースは採点自体を拒否する。価格スナップショットには日付と出典が付く
料金
| プラン | 料金 | 主な内容 |
|---|---|---|
| オープンソース(Apache 2.0) | $0 | 全機能を利用可能。PyPI(wattage)と npm(wattage-cli)で配布 |
導入は uvx wattage demo でサンプルレポートを表示するところから始められる。実データを見るなら uvx wattage report --claude-code で直近の Claude Code セッションを、uvx wattage report trace.json で任意の OTLP トレースを解析できる。
料金は2026年8月時点の情報です。最新の情報は公式リポジトリをご確認ください。
メリット・デメリット
✅ メリット
- 完全無料・オープンソースで、APIキーの発行やアカウント登録が一切いらない
- オフライン動作のため、エージェントのトレース(プロンプト内容を含みうる)を外部サービスに送らずに済む
- 「無駄」を抽象的な指標ではなくドル換算で出すので、削減効果を説明しやすい
- 検出結果に具体的な修正案が添えられており、次に何をすべきかが明確
- CI に入れれば、コード変更が原因のコスト増をリリース前に検知できる
⚠️ デメリット
- CLI ツールであり、Web ダッシュボードやチーム共有のホスティング機能はない
- 事前にトレースを取得している必要がある(Claude Code 以外では OpenTelemetry の計装が前提)
- v0.2.0 と初期段階のプロジェクトで、個人開発のため今後の更新頻度は読みにくい
- 価格データはスナップショットで、対応していないモデルが含まれると解析が止まる(誤った数字を出さないための設計だが、運用では更新への追随が必要)
- 日本語での解説記事や事例はまだ少ない
類似サービスとの比較
| 比較項目 | Wattage | Langfuse | Helicone | AgentOps |
|---|---|---|---|---|
| 提供形態 | CLI(ローカル完結) | SaaS + セルフホスト | SaaS + セルフホスト | SaaS |
| 主眼 | 無駄の検出とコスト回帰の防止 | トレース観測・評価・プロンプト管理 | プロキシ経由のログとコスト集計 | エージェントの実行監視・リプレイ |
| 無駄パターンの自動診断 | 10 種類の検出器で明示 | ダッシュボードから人が読み解く | ダッシュボードから人が読み解く | 実行の可視化が中心 |
| CI でのコスト回帰ゲート | GitHub Actions を標準提供 | 別途構築が必要 | 別途構築が必要 | 別途構築が必要 |
| アカウント・APIキー | 不要(オフライン) | 必要 | 必要 | 必要 |
| ライセンス | Apache 2.0 | オープンソース版あり | オープンソース版あり | 商用中心 |
観測基盤としての機能の幅では既存の LLM オブザーバビリティ系サービスに及ばないが、Wattage は「取得済みのトレースから無駄を名指しして直し方まで示す」という一点に絞られている。むしろ Langfuse や OpenLLMetry で集めたトレースを Wattage に食わせる、という組み合わせが想定されている。
こんな人におすすめ
- Claude Code を日常的に使っていて、トークン消費の内訳を一度きちんと見たい開発者
- 自作のAIエージェントを本番運用しており、リリースごとのコスト増を自動で止めたいチーム
- プロンプトキャッシュを入れたつもりが効いているのか確信が持てない人
- トレースに業務データが含まれるため、外部の観測 SaaS にログを送りにくい環境
- 「なんとなく高い」で終わっているAI利用料に、具体的な削減の当てをつけたい人
まとめ
Wattageは、AIエージェントのトレースを読み込んで無駄なトークン消費をドル換算で名指しし、修正案まで提示するオープンソースのコマンドラインツールである。10 種類の検出器のうち、ループの非収束を捉えるコンバージェンスエンジンは、既存のコスト可視化ツールでは拾いにくい領域を埋めている。オフライン・APIキー不要という導入の軽さも利点で、まずは uvx wattage demo で出力の雰囲気を掴み、次に自分の Claude Code セッションを解析してみるとよい。手応えがあれば、GitHub Actions によるコスト回帰ゲートまで一気に繋げられる。