OpenRouter と TokenRouter は、対応モデルの顔ぶれも、OpenAI 互換の API も、anthropic/claude-opus-5 というモデル ID の書き方までよく似ています。機能表を並べても差は出ません。
差が出るのは、何を数字で開示しているかと、モデルを選ぶ権限を誰に置くかの 2 点です。順に見ていきます。
OpenRouter ─ 手数料を全部開示して、組織機能は薄い
OpenRouter の料金は珍しいほど明快です。トークン単価には手を付けません。FAQ にはこうあります ─ 「We pass through the pricing of the underlying providers without any markup」。
では何で稼いでいるかというと、クレジット購入時の決済手数料 5.5%(最低 $0.80、暗号資産なら 5%)です。自前の API キーを持ち込む BYOK では、同じモデルを OpenRouter 経由で使った場合の 5% が手数料になりますが、一定額までは免除されます。免除枠はリクエスト数ではなく定価換算の推論コスト(金額)ベースで、Pay-as-you-go は月 $25,000 まで、Enterprise は月 $200,000 まで手数料がかかりません(2026 年 8 月 21 日時点の公式 FAQ。超過分に 5% が課されます)。無料モデルはクレジット未購入で 1 日 50 リクエスト、$10 以上購入すれば 1 日 1000 リクエストまで使えます。
数字が全部出ているので、乗り換えの損得を電卓で計算できます。これが最大の美点です。
ルーティングの作り込みも開発者向けに寄っています。プロバイダの試行順は order、除外は ignore、限定は only で指定でき、quantizations で量子化の精度まで縛れます。公式が「Quantized models may exhibit degraded performance for certain prompts」と品質劣化の可能性を自分から書いている点は誠実です。
複数モデルを並列で走らせる Fusion もありますが、ここは誤解されやすいところです。公式ドキュメントは、判定役のモデルが各回答を 統合しない(it doesn't merge them)と明記しています。実際にやるのは、合意点・相違点・見落としを構造化した JSON で返す比較分析です。そして既定の 3 モデル構成で、コストは通常の 4〜5 倍になります。常用する機能ではありません。
弱点は組織機能に出ます。ロールは管理者とメンバーの 2 種類、組織の上限は 10 名です。部署別に予算を割り当てる機能は公式ドキュメントに記載がありません。5 人までのチームなら困りませんが、経理から部門別の内訳を求められた瞬間に手が止まります。
もう一点、細かいながら象徴的な話があります。OpenRouter の対応ツール一覧には、今も「Windsurf」が載っています。この製品は 2026 年 6 月 2 日に Devin Desktop へ改名済みです。カタログを保守する側から見ると、この種の追従漏れは珍しくありません ─ だからこそ、対応ツール一覧は「載っているか」ではなく「いつ更新されたか」で読む必要があります。
TokenRouter ─ 組織の統制は厚く、単価は非開示
TokenRouter は逆の形をしています。
その前に、名前を整理させてください。「TokenRouter」を名乗るサービスは 1 つではありません。本記事が扱う tokenrouter.com は、シリコンバレーの AI インフラ企業 PaleBlueDot AI が 2026 年 4 月 21 日に「PBD TokenRouter」として発表したサービスです(利用規約や DPA の契約主体はデラウェア法人の Artemis Tokenrouter Inc. 名義になっています)。これとは別に、月額定額制で対応プロバイダ 13 社の tokenrouter.io という無関係な会社の別製品があり、さらに GitHub には同名の OSS プロジェクトが複数あります。解説記事を読むときは、まずどのドメインの話かを確かめてください。
料金の話に戻ります。TokenRouter はプラットフォーム利用料を取りません。FAQ は「TokenRouter currently does not charge platform fees」と明言していて、Stripe の決済手数料もユーザーに転嫁しません。ここだけ見れば OpenRouter より安く見えます。
ただし、トークン単価に上乗せがあるかどうかを開示していません。上乗せ率も、「上乗せなし」という明言も、公式のどこにも見当たりませんでした。同様に、最低チャージ額も、標準状態の RPM / TPM の上限も非公開です(引き上げは法人窓口へ問い合わせる形になっています)。加えて利用規約は、プリペイド残高とトップアップを「non-cancellable, non-refundable」と定めています。先に入金する仕組みで、返金はありません。
数字の出し方も揺れています。モデル一覧ページは「Showing 1 to 24 of 117 entries」と表示しますが、同社ブログは「300+ AI models」と書き、公式のフィーチャーガイドは「50+ multimodal models」と書いています。同じ会社の 3 つの発信元で、数字が 3 通りあります。ちなみに OpenRouter はトップページで「500+ active models on 80+ providers」と表示しています(2026 年 8 月 21 日時点。本記事の初出時は「400+ active models on 70+ providers」でした)。公称値は、数えられる場所で数えるまで信じないほうがいいという話です。
その代わり、組織まわりは厚く作られています。使用量は組織アカウントに集約され、個人の立て替えと精算がなくなります。クォータは個人・チーム・部署の単位で割り当てられます。分析はモデル別・メンバー別・期間別に見られ、ログは「どのリクエストで、誰が、どのモデルのトークンをいくつ使ったか」まで遡れます。OpenRouter が 10 名で頭打ちになる領域を、正面から設計しています。
データ保持は「ゼロ保持」を掲げていますが、範囲に注意が要ります。DPA の 7.1(b) は、ZDR がモデルプロバイダ側には自動適用されず、顧客が各プロバイダの方針を個別に確認すべきだと明記しています。ゲートウェイが保持しないことと、その先が保持しないことは別の話です。
ルーティングについては、情報源によって解像度が違う点に注意してください。ローンチ時のプレスリリースは「Smart Token Routing」として「リクエストを解析し、そのタスクに最も適したモデルへ自動で振り分ける」と説明し、リクエストの重複排除と結果の再利用を行う「Smart Caching」、複数経路による 99.95% の稼働率にも言及しています。一方で公式サイトとドキュメントの側には、これらの判定基準や設定方法の記述が見当たりません。書かれているのは「Always-On Routing」「Dynamic Global Routing」という、レイテンシと可用性に基づくインフラ層の最適化を指す表現までです。
そして「プロンプトの中身を解析して、機密情報を含むならこのモデルを禁止する」「地域の法規制に応じてプロバイダを選ぶ」といったガバナンス目的のポリシールーティングは、プレスリリースにも公式ドキュメントにも見当たりませんでした。統制の中心はあくまで予算とクォータであって、プロンプトの中身ではありません。ここを目的に導入を検討しているなら、事前に問い合わせたほうが確実です。
乗り換えで書き換わるのは base URL ─ ただし Claude Code には段差があります
移行コストの話をすると、実際に書き換わるのは接続先の URL とキーだけです。モデル ID は両者とも provider/model 形式で、anthropic/claude-opus-5 や openai/gpt-5.6-sol のように書きます。片方だけプレフィックスが要らない、といった差はありません。
TokenRouter は OpenAI 互換に加えて Claude SDK 互換のエンドポイントも提供していて、base URL は https://api.tokenrouter.com/v1 です。ただし Claude Code だけは例外で、ANTHROPIC_BASE_URL には /v1 を付けません。クライアント側が /v1/messages を自動で足すため、付けると /v1 が二重になってリクエストが失敗します。公式サイトの中でも、FAQ とセットアップガイドでこの表記が食い違っています。
さらに制約がひとつあります。TokenRouter が対応するのは CLI 版の Claude Code のみで、Claude Desktop と Claude Code のデスクトップ版・Web 版は、公式が非対応と明記しています。
移行コスト自体は小さいのですが、落ちるのはいつもこういう境界です。
決め手は「請求書が誰に届くか」
迷ったら、API キーの請求書が誰に届くかを考えてください。
自分のクレジットカードに届くなら OpenRouter で十分です。手数料が全部数字で公開されていて、BYOK という逃げ道もあり、500 を超えるモデルにすぐ触れます。ここで TokenRouter を選ぶ理由は、少なくとも今回調べた範囲では見つかりませんでした。
会社の経費で、自分以外の人間も同じキーを使うなら、必要なのはモデルの品揃えではなく、後から説明できる状態のほうです。乗り換えを検討する合図は 3 つあります ─ 監査ログの提出を求められたとき、部署別にコストを割る必要が出たとき、プロンプトに顧客データが混ざり始めたとき。このどれかを踏んだ月が、ゲートウェイを見直す月になります。
ただし移す前に、同じモデルに同じプロンプトを投げて請求額を突き合わせてください。TokenRouter は上乗せ率を開示していないので、安いかどうかは実際に叩いて確かめるしかありません。開示されていない数字は、こちらで測るほかないからです。
OpenRouter は AI Deck のカタログに登録済みで、タグやリンクからまとめて確認できます。気になるゲートウェイがまだ載っていなければ、リクエスト機能から追加を提案できます。