韓国の音声AI企業 Supertone が公開したオンデバイス型のテキスト読み上げ(TTS)モデル。音声合成の処理をすべて手元の端末で完結させる設計で、インターネット接続もAPIキーも必要としない。特徴はサイズの小ささで、パラメータ数はわずか99M(9,900万)。0.7B〜2B級の大型TTSモデルと比べて桁違いに軽いにもかかわらず、日本語を含む31言語を単一モデルで読み上げる。推論エンジンには ONNX Runtime を採用し、GPUなしのCPUのみで動作する。Python・Node.js・ブラウザ(WebGPU)・Java・C++・C#・Go・Swift・iOS・Rust・Flutter と11種類のランタイム向けにサンプル実装が用意されており、組み込み先を選ばない。
なお、公式リポジトリには2026年7月23日付でアーカイブ予定と公式サポート終了の告知が出ている。付随サービスである Voice Builder も2026年8月31日でアクセスできなくなる。導入を検討する場合は、この点を前提に判断する必要がある。
主な特徴
- 完全オンデバイス動作: 音声合成をすべてローカルで実行するため、テキストが外部サーバーに送信されない。オフライン環境でも動作し、APIキーの管理や従量課金も発生しない。プライバシーが問われる用途と相性がよい
- 99Mパラメータの軽量設計: 一般的な大型TTSモデルが数億〜数十億パラメータであるのに対し、Supertonic は99Mに収まる。Raspberry Pi 上でも実時間比(RTF)平均0.3倍、つまり音声の長さの3分の1程度の時間で生成できると公表されている
- 31言語を単一モデルで: 英語・日本語・韓国語・ドイツ語・フランス語・スペイン語・アラビア語・ヒンディー語・ベトナム語など31言語に対応。言語ごとにモデルを切り替える必要がなく、言語が判別できない場合は言語非依存モード(
lang="na")で処理できる - 11ランタイム向けの実装例: Python・Node.js・ブラウザ(WebGPU)・Java・C++・C#・Go・Swift・iOS・Rust・Flutter のサンプルコードが公式に提供されている。モバイルアプリ、デスクトップアプリ、Webフロントエンドのいずれにも組み込める
pip installで導入できる手軽さ: Python 環境ではpip install supertonicの1行で導入できる。試すだけなら Hugging Face 上のデモスペースでブラウザから触れる- 読み上げ精度のベンチマーク公開: Minimax-MLS-test を用いた WER / CER(誤読率)の比較結果が公開されており、はるかに大きなモデルと同等水準の読み取り精度を示している
料金
| プラン | 料金 | 主な内容 |
|---|---|---|
| モデル本体(セルフホスト) | 無料 | モデル重みとサンプルコードを取得して自前の端末・サーバーで実行。利用量の課金なし |
| Supertone Play | 要確認(Starter は初月無料試用あり) | Supertone が提供するWeb・デスクトップ製品。263種類のプリセット音声と感情表現、API連携に対応 |
料金は2026年8月時点の情報です。Supertone Play の Creator / Pro プランの具体的な金額は公式サイトでご確認ください。最新の情報は公式サイトをご確認ください。
ライセンスは2種類に分かれている。サンプルコードとランタイムバインディングは MIT ライセンス、モデル重みは OpenRAIL-M ライセンスである。OpenRAIL-M には「他者に危害を加えない」「同意なく他人になりすまさない」といった用途ベースの制限が含まれるため、商用利用を検討する場合はライセンス本文を必ず読むこと。
メリット・デメリット
✅ メリット
- サーバーへの送信が一切ないため、社外秘の原稿や個人情報を含むテキストの読み上げにも使える
- ランニングコストがゼロ。従量課金型のクラウドTTSと違い、大量に読み上げてもコストが増えない
- モデルが軽く、Raspberry Pi クラスの機器でも実用速度で動く。組み込み機器やキオスク端末に載せやすい
- 31言語を1つのモデルでまかなえるため、多言語アプリでもモデル管理が単純になる
- 11のランタイム向けサンプルがあり、既存のアプリへ組み込む際の実装コストが低い
⚠️ デメリット
- 公式リポジトリがアーカイブ予定・サポート終了と告知されており、今後の機能追加やバグ修正は期待できない
- Voice Builder(ゼロショット音声クローニング)は2026年8月31日でアクセス不可になる
- モデル重みが OpenRAIL-M のため、完全な自由利用ではない。用途制限の確認が必要
- 商用クラウドTTSの最上位モデルと比べると、感情表現や細かな抑揚のコントロール幅は限られる
- 導入には最低限のプログラミング知識が要る。GUIだけで完結する製品ではない
類似サービスとの比較
| 比較項目 | Supertonic | Kokoro TTS | Piper | ElevenLabs |
|---|---|---|---|---|
| 動作場所 | 端末内(オンデバイス) | 端末内(オンデバイス) | 端末内(オンデバイス) | クラウド(API) |
| モデルサイズ | 約99Mパラメータ | 約82Mパラメータ | 軽量(音声ごとのモデル) | 非公開 |
| 対応言語 | 31言語(単一モデル) | 英語中心+複数言語 | 多言語(言語別モデル) | 多言語 |
| 日本語 | 対応 | 対応 | 対応 | 対応 |
| 料金 | 無料(セルフホスト) | 無料 | 無料 | 従量課金・サブスク |
| ライセンス | コードMIT/モデルOpenRAIL-M | Apache-2.0 | MIT | 商用サービス |
| 開発状況 | アーカイブ予定 | 継続中 | 継続中 | 継続中 |
こんな人におすすめ
- 読み上げ対象のテキストを外部に出せない、社内システムや医療・法務系のアプリを作っている開発者
- 大量のテキストを読み上げる必要があり、クラウドTTSの従量課金がコスト面で見合わない人
- Raspberry Pi や組み込み機器など、非力なハードウェアで音声出力を実装したい人
- 多言語対応アプリで、言語ごとにTTSエンジンを切り替える手間を減らしたい開発者
- ローカルで動く軽量TTSの実装を学びたい、あるいはオフライン動作を前提としたプロトタイプを作りたい人
まとめ
Supertonic は、99Mパラメータという小ささで31言語のオンデバイス読み上げを実現した、実装重視のTTSモデルである。ネット接続もAPIキーも不要という設計は、プライバシー要件の厳しい業務や、コストを抑えたい大量読み上げの場面で効く。11ランタイム向けのサンプルが揃っている点も、実際にアプリへ組み込む立場から見れば大きい。
一方で、公式リポジトリはアーカイブ予定・サポート終了が告知されている。今後のアップデートを前提にした採用は避け、「現時点で完成しているものをそのまま使う」割り切りができる場合に選択肢となる。継続的なサポートやゼロショット音声クローニングが必要なら、Supertone Play のような商用製品や、開発が続いている他のオンデバイスTTSを併せて検討したい。