Pi は、ターミナル上で動くオープンソースのAIコーディングエージェント。libGDX の作者として知られる Mario Zechner(badlogic)氏が開発し、現在は Earendil Works から MIT ライセンスで公開されている。特徴は「機能ではなくプリミティブを提供する」という設計方針にある。サブエージェントやプランモードといった流行の機能をあえて内蔵せず、代わりに TypeScript の拡張機能・スキル・プロンプトテンプレートで、必要なものを利用者自身が組み立てられるようにしている。Anthropic・OpenAI・Google をはじめ 15 以上のLLMプロバイダーに対応し、セッション途中でのモデル切り替えも可能。SDK や RPC モードを備えるため、対話ツールとしてだけでなく、自作アプリに組み込むエージェント基盤としても使える。
主な特徴
- ミニマルなコア + TypeScript 拡張: 標準で持つツールは read / write / edit / bash と検索系(grep・find・ls)程度に絞られている。足りない機能は TypeScript で書く拡張機能として追加する設計で、Git 連携・権限確認ゲート・独自の圧縮処理などを自分で組み込める
- 15 以上のLLMプロバイダーに対応: Anthropic・OpenAI・Google Gemini / Vertex・Azure OpenAI・Amazon Bedrock・Mistral・Groq・xAI・DeepSeek・OpenRouter などに加え、ローカルの llama.cpp まで扱える。API キーだけでなく Claude / ChatGPT / GitHub Copilot のサブスクリプション経由のログインにも対応し、
/modelコマンドや Ctrl+P でセッション中にモデルを切り替えられる - ツリー構造のセッション管理: 会話履歴は
~/.pi/agent/sessions/に自動保存され、/treeで過去の任意の地点から枝分かれできる。セッションのフォークやクローン、長い会話の自動・手動コンパクションにも対応し、HTML や GitHub Gist への書き出しで共有もできる - スキルとパッケージ共有: Agent Skills 標準に沿ったスキルを
/skill:名前で呼び出せる。作った拡張機能・スキル・テーマは「Pi パッケージ」としてまとめ、pi install npm:@user/packageやpi install git:github.com/user/repoの形で npm や Git 経由で配布・導入できる - 4 つの動作モード(TUI / print / RPC / SDK): 対話用の TUI に加え、結果を JSON で吐く print モード、標準入出力越しに JSONL でやり取りする RPC モード(
pi --mode rpc)、Node.js ライブラリとして直接組み込む SDK を用意。Node.js 以外の言語からもエージェントを制御できる - 快適な TUI 操作:
@によるファイル名のあいまい検索、Ctrl+G での外部エディタ起動、!コマンドでのシェル実行、画像・クリップボードの受け渡しに対応。モデルの応答中にも次の指示をキューに積める
料金
| プラン | 料金 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 本体(OSS) | 無料(MIT ライセンス) | 全機能を利用可能。GitHub でソース公開 |
| LLM 利用料 | 各プロバイダー従量課金/サブスクリプション | Anthropic・OpenAI などのAPIキー、または Claude / ChatGPT / GitHub Copilot のサブスク |
料金は2026年8月時点の情報です。Pi 本体に独自の課金はなく、費用は利用するLLMプロバイダー側で発生します。最新の情報は公式サイトをご確認ください。
導入は次のいずれかで行える。
curl -fsSL https://pi.dev/install.sh | shnpm install -g --ignore-scripts @earendil-works/pi-coding-agentトークン使用量(入力・出力・キャッシュ読み書き・ヒット率)と概算コストは TUI のフッターに常時表示されるため、課金の状況を見ながら作業できる。
メリット・デメリット
✅ メリット
- 本体が MIT ライセンスの OSS で、ツール自体の利用料がかからない
- 特定のベンダーに縛られず、15 以上のプロバイダーとローカルモデルを行き来できる
- コアが小さく、挙動を把握しやすい。中で何が起きているかを追いやすい
- 拡張機能・スキル・テーマを npm や Git で配布でき、チーム内で作業手順を共有しやすい
- SDK と RPC モードがあるため、自作ツールへエージェント機能を組み込む土台として使える
- ツリー型セッションで「あの分岐点からやり直す」が手軽にできる
⚠️ デメリット
- サブエージェント・プランモード・MCP 連携・権限確認ポップアップが標準では用意されていない。必要なら自分で拡張を書くか、既存パッケージを探すことになる
- 拡張機能を書くには TypeScript の知識が必要で、非エンジニアには扱いにくい
- LLM の利用料は別途かかるため、無料で使い切れるわけではない
- ターミナル前提で、GUI や IDE 統合を求める人には向かない
- 個人発の比較的新しいプロジェクトで、大手ベンダー製ツールに比べると仕様変更のペースが速い
類似サービスとの比較
| 比較項目 | Pi | Claude Code | OpenCode | Aider |
|---|---|---|---|---|
| 提供元 | Earendil Works(Mario Zechner) | Anthropic | SST | コミュニティ(Paul Gauthier 開発) |
| ライセンス | MIT(OSS) | プロプライエタリ | OSS | OSS |
| 対応モデル | 15以上のプロバイダー+ローカル | 主に Claude | 複数プロバイダー | 複数プロバイダー |
| 設計方針 | ミニマル+拡張で組み立て | 統合済みの機能を標準搭載 | TUI 重視のマルチモデル | Git 連携中心の編集特化 |
| サブエージェント/プランモード | 標準では非搭載(拡張で実装) | 標準搭載 | 一部対応 | 非搭載 |
| 組み込み用途 | SDK・RPC モードあり | CLI 経由が中心 | サーバーモードあり | スクリプト連携中心 |
こんな人におすすめ
- 既存のコーディングエージェントの「決められた進め方」が合わず、自分の作業手順に合わせて組み替えたい開発者
- 複数のLLMプロバイダーを比較しながら使いたい、あるいはローカルモデルも併用したい人
- エージェント機能を自作のツールやサービスに組み込みたい(SDK・RPC を使いたい)エンジニア
- ツールの中身がブラックボックスなのを避けたい、OSS でコードを読める安心感を重視する人
- 試行錯誤の分岐をセッションとして残し、あとから別ルートを試したい人
一方、「インストールしてすぐ、設定なしで賢く動いてほしい」というニーズには、標準機能が充実した Claude Code などのほうが素直に合う。
まとめ
Pi は、AIコーディングエージェントに「作り込む余地」を求める人向けのツールである。コアを小さく保ち、サブエージェントやプランモードすら拡張機能に委ねる割り切りは、便利さより制御しやすさを取る選択といえる。TypeScript が書けるなら、自分の開発フローそのものをエージェントに落とし込める自由度は大きい。まずは MIT ライセンスの本体を入れ、手持ちのAPIキーやサブスクリプションで小さく試し、足りない機能が見えてきたら拡張やパッケージを探す ─ という順で触っていくとよい。