Mastra AIは、AIエージェントをTypeScriptで開発・運用するためのフレームワークである。エージェントの定義、複数ステップにまたがるワークフロー、会話の記憶(メモリ)、本番運用のための観測(トレース・メトリクス・評価)を、別々のライブラリを寄せ集めることなく一式で扱える点が特徴だ。コアはApache 2.0のオープンソースとして公開されており、React / Next.js / Node.jsのアプリに組み込む形でも、単体のサーバーとしてデプロイする形でも使える。ブラウザ上でエージェントを組み立てるAgent Builderや、開発者と非エンジニアが同じ画面でエージェントの挙動を確かめるStudioも提供され、コードとGUIの両方から扱えるようになっている。
主な特徴
- 型のついたエージェント定義: 指示文(instructions)、使用するモデル、呼び出せるツール、実行時の振る舞いを1か所にまとめて定義する。TypeScriptの型が効くため、ツールの入出力やレスポンスの構造をエディタ上で確認しながら書ける
- ワークフローで多段処理を組む: 分岐・リトライ・逐次ステップを組み合わせ、「調べる → 判断する → 実行する」といった多段の処理を1つのワークフローとして定義できる。どこで何が起きたかを後から追える構造になっている
- メモリと意味検索: 会話スレッド単位の記憶に加え、過去のやり取りを意味的に検索して呼び戻す仕組み(semantic recall)を備える。長い対話でも文脈を保ったまま応答させやすい
- 観測と評価が最初から入っている: トレース、レイテンシ、トークン使用量、コスト、ツール呼び出しを記録し、評価(evals)やスコアリングと組み合わせて品質を継続的に測れる。本番のエージェントで「なぜこの答えになったか」を追跡できる
- 90以上のモデルプロバイダに1つのインターフェースで接続: OpenAI、Anthropic、Geminiなどを共通のモデルルーティング経由で切り替えられる。Model Context Protocol(MCP)サーバーの実装にも対応する
- Agent BuilderとStudio: Agent Builderはブラウザ上でエージェントを作成・管理する仕組みで、TypeScriptを書かずに組み立てられる。Studioは開発中のエージェントとワークフローを試すビジュアルIDEで、ドメイン知識を持つ非エンジニアがトレースに注釈を付けたりプロンプトを直したりできる
料金
Mastraには「自分のインフラで動かすセルフホスト」と「Mastraが提供するクラウド(Mastra Platform)」の2系統がある。
| プラン | 月額料金 | 主な内容 |
|---|---|---|
| セルフホスト(Apache 2.0) | $0 | エージェント・ワークフロー・メモリ・観測を含むコア一式。任意の環境で自前ホスト |
| Platform Starter | $0 | 観測イベント10万件(超過分は10万件あたり$10)、CPU時間24時間(超過分は$0.35/時)、データ保持15日、ユーザー・デプロイ・プロジェクト数は無制限 |
| Platform Teams | $250 | 観測イベント100万件(超過分は10万件あたり$8)、CPU時間250時間(超過分は$0.25/時)、データ保持6か月、複数チーム管理・SSO・SOC 2関連ドキュメント |
| Platform Enterprise | 要問い合わせ | 保持期間・処理量のカスタム設定、RBAC、監査ログ、サポートSLA、専任エンジニア |
| セルフホスト Enterprise | 要問い合わせ | RBAC、SSO、IAM連携、データを自社VPC内に保持。年額固定(トレース従量課金なし) |
このほか、常時稼働のサーバーが必要な場合は1プロジェクトあたり$100、モデル呼び出しをMastra経由のゲートウェイで行う場合は市場価格+5.5%が加算される。データベース・ストレージは使用量に応じた段階制。
料金は2026年8月時点の情報です。最新の料金は公式サイトをご確認ください。
メリット・デメリット
✅ メリット
- TypeScript前提で設計されているため、Web/Node.jsのアプリにそのまま組み込める。Pythonの実行環境を別に用意する必要がない
- エージェント・ワークフロー・メモリ・観測が同じフレームワークに揃っており、複数ライブラリの組み合わせに悩まなくて済む
- コアがApache 2.0のオープンソースで、無料で始められる。ベンダーロックインを避けたい場合はセルフホストを選べる
- 90以上のモデルプロバイダを共通インターフェースで切り替えられ、モデル変更のコストが低い
- Studio / Agent Builderにより、非エンジニアがエージェントの挙動確認やプロンプト調整に参加できる
⚠️ デメリット
- エージェント開発の前提知識(LLM呼び出し、ツール定義、プロンプト設計)が必要で、ノーコードでAIチャットを作るツールとは性質が異なる
- クラウド(Mastra Platform)の無料枠は観測イベント・CPU時間・データ保持に上限があり、本格運用ではTeams以上またはセルフホストの検討が要る
- 一部のエンタープライズ機能はApache 2.0ではなく別ライセンスとなるため、要件によっては商用契約が必要になる
- 発展の速い領域のため、APIやドキュメントの更新頻度が高い。バージョン追従の手間は見込んでおきたい
類似サービスとの比較
| 比較項目 | Mastra AI | LangGraph | Vercel AI SDK | CrewAI |
|---|---|---|---|---|
| 主な言語 | TypeScript | Python / TypeScript | TypeScript | Python |
| 提供範囲 | エージェント・ワークフロー・メモリ・観測・サーバー | グラフ型ワークフロー中心 | モデル呼び出しとUI統合中心 | マルチエージェントの役割分担 |
| GUI | Studio / Agent Builder | LangGraph Studio | なし(UIコンポーネントは提供) | 管理UIあり |
| 観測・評価 | 標準搭載 | LangSmith(別サービス) | 外部連携が前提 | 別途連携 |
| ライセンス | Apache 2.0(コア) | MIT | Apache 2.0 | MIT |
こんな人におすすめ
- Next.jsやNode.jsでサービスを作っており、AIエージェント機能を同じTypeScriptのコードベースに組み込みたい開発者
- プロトタイプで終わらせず、トレースや評価を見ながらエージェントの品質を改善していきたいチーム
- 複数のLLMプロバイダを比較・切り替えながら開発したい人
- 非エンジニアのドメイン担当者にもプロンプト調整やテストに参加してもらいたい組織
- 自社インフラ上でエージェントを動かし、データを外に出したくないケース
まとめ
Mastra AIは、AIエージェントの「作る」から「運用して直す」までをTypeScript一本で完結させるフレームワークである。エージェント定義・ワークフロー・メモリ・観測が同じ土台に載っているため、個別のライブラリを組み合わせるより見通しよく開発できる。コアはオープンソースで無料のため、まずはセルフホストで小さく試し、チームでの運用や観測データの蓄積が必要になった段階でMastra Platformを検討するのが現実的な進め方だろう。