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Inngest ─ ふつうのコードを、リトライも状態管理も自動で面倒を見る耐障害性ワークフローに変える開発プラットフォーム

Inngest Inc.(米国)が提供する、バックエンドの非同期処理を「壊れにくいワークフロー」として書くための開発プラットフォーム。書いたコードを step という単位に区切っておくと、途中で失敗しても最初からやり直すのではなく、失敗したステップから再開してくれる(durable execution/耐久実行)。キューやワーカー、ジョブの状態を保存するテーブルを自分で用意しなくてよいのが最大の特徴で、バックグラウンドジョブ、定期実行、Webhook 処理、そして近年は AI エージェントの実行基盤として使われている。SDK は Apache 2.0 のオープンソースで公開され、TypeScript/Node.js・Next.js・Python・Go に対応する。2021 年 10 月公開。

主な特徴

  • 耐久実行(durable execution): 処理を step.run() で区切っておくと、各ステップの結果が保存される。ネットワークエラーや外部 API の一時障害で落ちても、成功済みのステップはスキップして失敗地点から自動リトライされる。「二重に課金してしまった」といった再実行事故を避けやすい
  • キュー・ワーカーの管理が不要: Redis や SQS、ワーカープロセスの常駐、ジョブ状態を保持する DB テーブルといった構成要素を自前で持たなくてよい。イベントを送る側と、それを受けて動く関数を書くだけで済む
  • フロー制御が宣言的: 同時実行数の上限、スロットリング、レート制限、テナントごとの公平性(特定ユーザーが処理枠を独占しない)、同一キーで 1 本しか走らせない singleton 実行などを、関数の設定として書ける
  • 長時間の待機と再開: step.waitForEvent() で「ユーザーの承認イベントが来るまで待つ」「7 日後に再開する」といった処理が書ける。待っている間はサーバーを占有しないため、人間の承認を挟むワークフローや AI エージェントの中断・再開に向く
  • オブザーバビリティと再生: 実行ごとのトレース、ステップ単位の入出力、失敗した実行のリプレイをダッシュボードから確認・実行できる。2026 年には SQL でイベントや実行を検索する Insights、AI 呼び出しのコストと性能を見る AI Overview も追加された
  • AI エージェント向けの機能群: エージェントフレームワーク AgentKit のほか、実行結果に品質スコアを付ける Scoring(LLM-as-judge の評価に使える)、関連する実行をまとめる Sessions、本番トラフィックでステップの実装を比較する Experiments が提供される
  • デプロイ先を選ばない: サーバーレス(Vercel、Cloudflare Workers 等)でも常駐サーバーでも動く。Connect を使えばコンテナ側から持続的接続を張る構成も取れる

料金

プラン月額料金主な内容
Hobby$0実行 50,000/月、同時実行ステップ 5、イベント 500,000/月、トレース保持 24 時間、基本的なトレース・メトリクス・アラート
Pro$99〜実行 100 万/月(従量課金で最大 2,000 万まで)、同時実行ステップ 100〜(25 ステップ追加ごとに $25)、イベント 500 万/月〜、トレース保持 7 日
Enterprise要問い合わせ各種上限はカスタム、トレース保持 90 日、SAML・RBAC・監査証跡、専用 Slack サポート

Hobby プランはクレジットカード登録なしで始められる。Pro は実行数・スパンデータ・イベント数などが超過分の従量課金になる設計のため、実際の請求額はワークフローのステップ数に左右される。

料金は2026年8月時点の情報です。最新の料金は公式サイトをご確認ください。

メリット・デメリット

メリット

  • キュー・ワーカー・状態管理テーブルを自前で構築・運用する手間がなくなり、非同期処理をふつうの関数として書ける
  • 失敗したステップからの自動リトライにより、外部 API の一時障害に強いコードが自然に書ける
  • 同時実行数・レート制限・テナント公平性を設定として書けるため、負荷制御のロジックをアプリ側に散らかさずに済む
  • SDK が Apache 2.0 のオープンソースで、ローカル開発サーバーを使えばクラウドに繋がずに動作確認できる
  • サーバーレス環境でも長時間ワークフローが書ける。関数の実行時間上限を待機で消費しない設計になっている
  • 無料の Hobby プランで実行 50,000/月まで試せる

⚠️ デメリット

  • 有料プランが月額 $99 からで、無料枠を超えた小規模プロジェクトにとっては段差が大きい
  • 従量課金の単位が「実行(executions)」であり、ステップを細かく分けるほど消費が増える。コスト見積もりに慣れが要る
  • ステップ単位で処理を分割し、ステップ間で受け渡す値は直列化可能にする、といった書き方の制約を理解する必要がある
  • 実行基盤がマネージドサービスであるため、外部サービスへの依存が増える(自前ホスティングは Enterprise 相当の相談事項)
  • 無料プランのトレース保持が 24 時間と短く、時間が経ってからの障害調査には向かない

類似サービスとの比較

比較項目InngestTrigger.devTemporalAWS Step Functions
起動方法イベント駆動が中心関数の直接呼び出しが中心ワークフロー呼び出しステートマシンの実行
ワークフロー定義コード(step 単位)コード(task 単位)コード(言語別 SDK)JSON/ASL 定義
対応言語TypeScript・Python・GoTypeScript 中心Go・Java・TypeScript・Python 等言語非依存(Lambda 等を接続)
自前ホスティングオープンソース SDK +マネージド実行セルフホスト可セルフホスト可(OSS)不可(AWS マネージド)
無料枠あり(実行 50,000/月)ありTemporal Cloud に無料枠ありAWS 無料枠あり
向いている場面SaaS の非同期処理・AI エージェントTypeScript 中心のジョブ実行大規模・長期運用の基幹ワークフローAWS 内で完結する処理の連携

こんな人におすすめ

  • Redis や SQS を使ったジョブキューを自前で組み、リトライやデッドレターの面倒を見るのに疲れているバックエンド開発者
  • Vercel や Cloudflare Workers 上のアプリで、実行時間の上限に収まらない長時間処理を書きたい人
  • 外部 API を何段も呼ぶ処理(決済、メール送信、データ同期)で、途中失敗の後始末を丁寧にやりたいチーム
  • AI エージェントを本番で動かすにあたり、中断・再開・リトライ・評価ログを備えた実行基盤が欲しい開発者
  • 特定のテナントが処理枠を占有しないよう、同時実行やレート制限を宣言的に管理したいマルチテナント SaaS の運用者

まとめ

Inngest は、非同期処理を書くときに毎回作り直していた「キュー・ワーカー・リトライ・状態管理」を引き受けてくれるプラットフォームである。コードを step に区切るという書き方さえ覚えれば、失敗に強い長時間ワークフローが素直な関数として書けるようになる。近年は Scoring や Sessions など AI エージェントの運用機能が厚くなっており、エージェントの実行基盤としての性格も強めている。まずは無料の Hobby プランとローカル開発サーバーで、既存のバックグラウンドジョブを 1 本移してみるのが分かりやすい。

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