インドのHevolve AI(Hertz AI)が開発するオープンソースのAIネイティブOS。正式名称は「Hevolve Hive Agentic Runtime OS」で、AIモデルを手元のマシンで動かし、Wi-Fiを切った状態でも動作し続けることを設計目標に据えている。特徴的なのは、AIの実行を個々のアプリではなくOS側が引き受ける点。アプリはAPIキーを持たず、OSに推論を依頼するだけでよいため、同じモデルをアプリごとに読み込む無駄がなくなる。ノード同士は中央のブローカーを介さないピアツーピアで連携し、余っている計算資源を融通し合える。ライセンスはApache 2.0で、現在は公開アルファ版として開発が進んでいる。
主な特徴
- 完全ローカルで動く推論エンジン: llama.cppとGGUF形式の重みを使い、手元のハードウェアだけでモデルを動かす。ネットワークが切れていても入力した内容はマシンの外に出ない
- OSが推論を一元管理する: OpenAI互換の
/v1/chat/completionsエンドポイントをOS側が提供し、アプリはそこへ問い合わせる。アプリ個別のAPIキー管理が不要になり、モデルの多重ロードも避けられる - ハードウェアに応じた自動配置: VRAMマネージャーが搭載GPUの性能を判定し、モデルをGPUとCPUへ動的に割り振る。CUDA・ROCm・Metal・Vulkan・CPU推論に対応し、GPUがない環境でもCPUオフロードで動作する
- ブローカーレスのピアツーピア連携: ノードがゴシップ方式で互いを発見し、WebSocketで直接つながる。中央サーバーを立てずに計算資源を借り合え、貢献度に応じたスコアリングも備える
- 画面を見て操作するビジョンエージェント: スクリーンショットの取得とpyautoguiによるデスクトップ操作を組み合わせ、GUIアプリを人間と同じように扱える
- 常駐のコーディングコパイロット: ノード自身のコパイロットとしてClaude Codeが動作し、読み取り専用のファイルシステムサンドボックス内に閉じ込められる
- レシピによる作業の再生: 一度覚えさせた手順を「レシピ」として保存し、次回以降は再生するだけで済む。公式ドキュメントでは最大90%の高速化が示されている
- AIに書き換えられないシステム領域: NixOSの読み取り専用ストアを土台とし、更新は署名付きのパイプラインでテスト・監査・ベンチマークを通してから新しい世代として配布される。健全性が下がれば自動でロールバックする
料金
| プラン | 料金 | 主な内容 |
|---|---|---|
| オープンソース版 | $0 | Apache 2.0ライセンスで全機能を利用可能。サブスクリプションなし |
自分のマシンで動かす限り、モデルの利用に追加費用はかからない。外部のクラウドAPI(OpenAIやGroqなど)を併用する場合のみ、そのサービス側の従量課金が発生する。プロジェクトは将来的にAPI利用や広告、エージェントの作業報酬を90/9/1で分配する経済モデルを掲げているが、公式リポジトリの記載では決済はまだ通しで動いていない。
料金は2026年8月時点の情報です。最新の情報は公式リポジトリをご確認ください。
メリット・デメリット
✅ メリット
- 入力した内容が外部に送信されないため、機密性の高い資料や社内データを扱いやすい
- サブスクリプション費用がかからず、手元のハードウェアの範囲で使い続けられる
- アプリごとにAPIキーを配る必要がなく、鍵の管理箇所がOS 1か所に集約される
- 同じモデルを複数のアプリが重複して読み込まないため、メモリの消費を抑えられる
- Apache 2.0のオープンソースで、内部実装を読んで検証したり自分で改変したりできる
⚠️ デメリット
- 公開アルファ版のためAPIは変更の途中にあり、本番運用には慎重な検証が要る
- 推論速度と使えるモデルの規模は手元のハードウェア次第で、クラウドの大規模モデルと同じ品質は望めない
- Python 3.10〜3.11が前提で、3.12以降では動かない。環境構築にコマンドライン操作の知識が必要
- ビジョンエージェントによる画面操作は、誤操作のリスクを踏まえた上で使う必要がある
- 経済モデル(貢献度スコアや報酬分配)はまだ構想と実装の途中段階にある
類似サービスとの比較
| 比較項目 | HART OS | Ollama | LM Studio | Jan |
|---|---|---|---|---|
| 位置づけ | OSレイヤーのAIランタイム | ローカルLLM実行ツール | GUI付きローカルLLM環境 | ローカルAIチャットアプリ |
| 主な使い方 | OSがアプリへ推論を提供 | CLI・APIでモデルを実行 | デスクトップアプリで対話 | デスクトップアプリで対話 |
| ノード間連携 | ピアツーピアで計算資源を融通 | 単独動作が基本 | 単独動作が基本 | 単独動作が基本 |
| デスクトップ操作 | ビジョンエージェント搭載 | なし | なし | なし |
| ライセンス | Apache 2.0 | MIT | 独自(無料利用可) | AGPL |
Ollama・LM Studio・Janはいずれも「ローカルでモデルを動かすためのツール」であり、既存のOSの上で一つのアプリケーションとして動く。HART OSはその一段下、OS側に推論とエージェントの実行環境を組み込み、複数ノードの連携やシステム更新の署名検証まで含めて設計している点が異なる。手軽に試したいならOllamaやLM Studio、環境ごと作り込みたいならHART OSという住み分けになる。
こんな人におすすめ
- 機密データを扱うため、AIへの入力を外部に出したくない人
- 月額のAIサブスクリプションを積み上げず、手元のハードウェアで完結させたい人
- 複数台のマシンを持っていて、余っているGPUを他のマシンから使いたい人
- ローカルAI環境の内部を読んで理解したい、あるいは自分で改造したい開発者
- ネットワークが不安定・遮断された環境でもAIを使う必要がある人
まとめ
HART OSは、AIの実行をアプリからOSへ移し、ローカル完結とピアツーピア連携を組み合わせたオープンソースのAIネイティブOSである。APIキーをアプリに配らない設計、GPU/CPUへの自動配置、NixOSベースの署名付き更新といった仕組みは、ローカルAI環境を「道具の寄せ集め」から「土台」へ引き上げようとする試みといえる。ただし現時点では公開アルファ版で、環境構築にも一定の知識が要る。まずは手元のマシンで動かして推論速度と使い勝手を確かめ、常用に足るかを判断するとよい。