Vercelが2026年6月17日にパブリックプレビューとして公開した、AIエージェント開発のためのオープンソースTypeScriptフレームワーク。「Next.jsがWeb開発にもたらしたものを、エージェント開発に」という位置づけで、エージェントを1つのディレクトリとして定義する。指示やスキルはMarkdown、ツールはTypeScriptで書き、耐久実行・サンドボックス実行・観測性といった、本番運用で必ず必要になる仕組みを最初から備えている。ライセンスはApache 2.0で、ソースはGitHubで公開されている。
エージェント開発では、モデルを呼ぶところまではすぐに作れても、その先の「途中で落ちたセッションをどう再開するか」「生成されたコードをどこで安全に実行するか」「何が起きたかをどう追跡するか」を自前で組み上げる負担が大きい。eveはその足回りを規約として用意し、開発者がエージェントの中身に集中できるようにするフレームワークである。
主な特徴
- ファイルシステム優先の構成: エージェントはディレクトリそのもの。
agent.ts(モデル設定)、instructions.md(システムプロンプト)、tools/(TypeScriptの関数)、skills/(Markdownの手順書)、channels/(連携先)、schedules/(定期実行)、subagents/(委譲先)という決まった場所にファイルを置くと、eveが自動的に検出してエージェントのループに組み込む。設定ファイルの記述や登録処理が要らない - 耐久実行(Durable Execution): セッションはステップごとにチェックポイントが取られ、プロセスのクラッシュやデプロイをまたいでも処理が継続する。長時間かかるエージェントの実行が、再デプロイのたびに消える心配がない
- サンドボックス実行: エージェントが生成したコードは、アプリ本体のランタイムとは分離された環境で動く。ローカルではDocker、本番ではVercel Sandboxが使われる
- 標準搭載の観測性: 1回の実行ごとにOpenTelemetryのトレースが出力され、モデル呼び出し・ツール実行・サンドボックスでのコマンドまで追える。Braintrust、Honeycomb、Datadog、Jaegerなどへエクスポートでき、Vercel上ではAgent Runsダッシュボードから確認できる
- 1つのエージェントを複数チャネルへ: Slack、Discord、Teams、Telegram、GitHub、Linear、HTTP APIなどにチャネルアダプタ経由で同じエージェントを公開できる。
eve channels add slackのようなコマンドで接続先を増やす形になる - MCP・OpenAPI連携と人間の承認: 外部サービスはMCPサーバーやOpenAPIドキュメント経由で接続でき、Vercel ConnectによるOAuthにも対応する。実行前に人間の承認を挟むHuman-in-the-loop、サブエージェントへの委譲、挙動を検証するevals(評価)も組み込まれている
料金
| 対象 | 料金 | 内容 |
|---|---|---|
| eve(フレームワーク本体) | 無料 | Apache 2.0のオープンソース。自前のインフラでも動かせる |
| Vercel Hobby | $0 | 個人利用向け。開発者シート1つ |
| Vercel Pro | 月額$20 | $20分の従量利用クレジットを含む。追加の開発者シートは1人あたり月額$20 |
| Vercel Enterprise | 要問い合わせ | SLA・高度なセキュリティ・サポートなど |
料金は2026年8月時点の情報です。フレームワーク自体は無料ですが、Vercelへデプロイする場合のホスティング費用と、利用するAIモデルのAPI利用料は別途かかります。最新の料金は公式サイトをご確認ください。
メリット・デメリット
✅ メリット
- 耐久実行・サンドボックス・観測性という、本番運用で後から必ず必要になる要素が最初から揃っている
- ディレクトリ構成が規約化されているため、他人が書いたエージェントでも構造を読み解きやすい
- スキルをMarkdownで書けるので、エンジニア以外のメンバーも手順書の形で知識を持ち込みやすい
- 同じエージェントをSlackやGitHubなど複数の接点へ展開でき、チャネルごとに実装を分ける必要がない
- Apache 2.0のオープンソースで、特定のホスティングに縛られにくい
⚠️ デメリット
- 2026年6月開始のパブリックプレビュー段階で、仕様やAPIが変わる可能性がある
- TypeScriptとNode.jsの前提知識が必要で、ノーコードで使えるツールではない
- デプロイ先として最初に整備されているのはVercelで、他プラットフォームへの対応はこれからの領域
- モデルのAPI利用料やホスティング費用は別途発生するため、無料で完結するわけではない
- 規約重視の設計は、構成を細かく自分で決めたい場合には制約に感じられることがある
類似サービスとの比較
| 比較項目 | eve | Mastra | LangGraph | OpenAI Agents SDK |
|---|---|---|---|---|
| 提供元 | Vercel | Mastra | LangChain | OpenAI |
| 言語 | TypeScript | TypeScript | Python / TypeScript | Python / TypeScript |
| 構成の考え方 | ディレクトリ規約で自動検出 | コードで組み立てる | グラフ(状態機械)で記述 | コードで組み立てる |
| 耐久実行 | 標準搭載 | 対応 | 対応 | 実装側で用意 |
| サンドボックス実行 | 標準搭載(Docker / Vercel Sandbox) | 別途構成 | 別途構成 | 別途構成 |
| チャネル展開 | Slack・Discord・GitHub等を標準サポート | 別途実装 | 別途実装 | 別途実装 |
| ライセンス | Apache 2.0 | オープンソース | オープンソース | オープンソース |
こんな人におすすめ
- 検証段階のエージェントを、実運用に耐える形へ引き上げたいTypeScript開発者
- 社内向けのSlackボットやGitHub連携エージェントを、同じ実装で複数チャネルに出したいチーム
- エージェントの挙動をトレースで追い、改善のサイクルを回したい人
- Vercelを既に使っており、エージェントも同じ流れでデプロイしたい人
- 手順書やナレッジをMarkdownで持ち込み、エンジニア以外とも共同で育てたいチーム
まとめ
eveは、エージェント開発で毎回作り直しになりがちだった土台 ─ 耐久実行、サンドボックス、観測性、チャネル連携 ─ をフレームワークの規約として引き受けるプロダクトである。ディレクトリにファイルを置けば動くという構成は学習コストが低く、Markdownでスキルを書ける点はチームでの運用にも向く。一方でパブリックプレビュー段階であり、TypeScriptの知識も前提になるため、まずは npx eve@latest init で小さなエージェントを1つ作り、トレースの見え方や運用感を確かめてから本格導入を判断するのが現実的である。