The Weekend Projects が公開した、LLM を CPU として扱う AI ネイティブなプログラミング言語の実験的プロジェクト。やりたいことをプレーンな Markdown(.aic)で書くと、コンパイラ aicompiler が曖昧さを取り除いた意味オペコードの JSON(.aix)へ変換し、ランタイムの aiVM が LLM をエンジンにして 1 ステップずつ実行する。JVM がバイトコードを CPU 上で走らせる構図を、そのまま LLM に置き換えた発想だ。既存の LLM をコードの中から「ツール」として呼ぶのではなく、LLM そのものを実行層に据える点が最大の特徴で、フレームワークでもエージェントのラッパーでもない新しい計算パラダイムを標榜している。MIT ライセンスの OSS として公開されており、公式サイトではアカウント登録も API キーもインストールも不要のライブデモを試せる。
主な特徴
- プレーンな英語で書く
.aicソース: セミコロンも型注釈も不要。ワークフローの入力・使うツール・処理手順を、Markdown 風の自然文で書き下ろすだけでプログラムになる .aixへのコンパイルで曖昧さを固定: 自然文のままでは実行のたびに解釈がブレる指示を、コンパイル時に曖昧さゼロのオペコード列(JSON)へ変換する。生成物は人が読める形式なので、Git にコミットして差分レビューやバージョン管理の対象にできる- aiVM が 1 ステップずつ実行: ランタイムの aiVM が
.aixを順に処理し、途中で外部ツールを呼び出しながらステップ間の状態を管理する。どの段階で何が起きたかを追える構造になっている - モデルを差し替えられる: 既定は Cloudflare Workers AI 上の Llama 3.3 70B。Anthropic の Claude や Amazon Bedrock の Nova Micro にも対応しており、同じ
.aicを別のモデルで走らせられる - Cloudflare Workers 上で動く構成: リポジトリを clone して Cloudflare Workers にデプロイする形。Web インターフェースは Astro と React で作られている
- MIT ライセンスの OSS: コードは GitHub 上で公開されており、自由に読み・改変し・自分の環境で動かせる
料金
| プラン | 料金 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 公式サイトのライブデモ | $0 | アカウント・API キー・インストール不要。サンドボックスのサンプルをその場で試せる |
| セルフホスト(MIT ライセンス) | $0 | GitHub から clone して Cloudflare Workers にデプロイする |
| LLM の利用料 | 各社の従量課金 | 既定の Cloudflare Workers AI(Llama 3.3 70B)には無料枠がある。Claude や Amazon Bedrock を使う場合は各プロバイダの料金がかかる |
料金は2026年8月時点の情報です。最新の情報は公式サイトをご確認ください。
メリット・デメリット
✅ メリット
- プログラミング言語の文法を覚えなくても、やりたいことを英語で書き下ろすだけでワークフローを組める
- コンパイル結果の
.aixが人間の読める JSON なので、「AI が何をどう解釈したか」をレビューできる。プロンプトを丸ごと投げる方式より透明性が高い .aixをバージョン管理できるため、実行のたびに指示の解釈が揺れる問題を抑えやすい- モデルを差し替えても同じソースを使い回せるため、モデル固有の書き方に縛られにくい
- MIT ライセンスで完全に無料。試すのにアカウント登録すら要らない
⚠️ デメリット
- v0.1 段階の実験的プロジェクトで、外部ツール連携などは開発途上。本番運用の実績はまだない
- 公開から日が浅く、GitHub のスターもコミュニティも小規模。トラブル時に参照できる記事や事例がほとんどない
- 実行エンジンが LLM である以上、コンパイルで曖昧さを詰めても出力が完全に決定的になるわけではない
- Cloudflare Workers へのデプロイを前提とした構成のため、別の実行環境で動かすには手を入れる必要がある
- ドキュメントも
.aicの記述も英語が前提で、日本語の情報はほぼ無い
類似サービスとの比較
| 比較項目 | aiCompiler | DSPy | BAML | LangChain |
|---|---|---|---|---|
| 位置づけ | AI ネイティブ言語 + 仮想マシン | 宣言的に LLM プログラムを書く Python フレームワーク | LLM 関数を定義する DSL と型付きクライアント生成 | LLM アプリ構築の汎用フレームワーク |
| 書き方 | プレーンな Markdown(.aic) | Python コード | 専用 DSL(.baml) | Python / TypeScript コード |
| 中間表現 | .aix(JSON のオペコード列) | なし | 生成された型付きコード | なし |
| 成熟度 | v0.1 の実験段階 | 研究発の OSS、実運用例あり | 実運用例あり | 実運用例が最も豊富 |
| 料金 | 無料(MIT ライセンスの OSS) | 無料(OSS) | 無料(OSS) | 無料(OSS、有料の周辺サービスあり) |
DSPy・BAML・LangChain がいずれも「既存のプログラミング言語の中から LLM を呼ぶ」設計なのに対し、aiCompiler は言語そのものを自然文に置き換え、LLM を実行層に据える点で立ち位置が異なる。実用性で選ぶなら成熟した既存フレームワークが妥当だが、設計思想として面白いのは aiCompiler のほうだ。
こんな人におすすめ
- LLM を「呼び出すツール」ではなく「計算基盤」として扱う考え方に興味がある開発者
- プロンプトをそのまま実行に流す方式の再現性の低さに悩んでいて、中間表現を挟むアプローチを試したい人
- Cloudflare Workers 上で AI ワークフローを動かす実験をしてみたい人
- 新しいプログラミングパラダイムの初期段階を、コードを読みながら追いかけたい人
まとめ
aiCompiler は「LLM を CPU に見立てたら、言語とコンパイラと VM はどうなるか」という問いに、実際に動くコードで答えを出そうとしている実験的プロジェクトである。自然文のソースを中間表現へコンパイルし、それをバージョン管理できるという発想は、プロンプトの再現性という現実的な課題にも通じる。ただし v0.1 段階で実績も情報も乏しいため、業務で使うツールとしてではなく、まずは公式サイトのライブデモで思想を体験してみる対象として捉えるのがよい。